世界的な人気を誇るゲーム『ゼノブレイド』シリーズ。その壮大な世界を彩る音楽を手掛けてきたユニット「ACE」のメンバーであり、プロシンガーの発掘育成に携わるボイストレーナーのCHiCOさん。
彼女が関わった生徒たちは、今や日本のトップシンガー、俳優、作詞作曲家など、多方面でめざましい活躍を見せている。
その輝かしいキャリアの裏には、「鍵盤に血を吐く」ほどの創作への情熱と、彼女自身が声を出すことすら恐怖だったという壮絶なコンプレックスがあった。
「悩んでいる時点で、あなたには才能がある」
彼女が自身の半生を通してたどり着いた、自分だけの才能の見つけ方、そして夢を叶えるための哲学とは。自分の道に迷い、自信を失いかけているすべての人へ贈る、勇気のメッセージ。

クリエイターの魂――「血を吐く」ほどの情熱とプライド
「ゲーム音楽の概念を、自分たちの手で変えようって」
CHiCOさんは、当時を振り返って力強く語る。彼女と工藤ともりさんによるユニット「ACE」が『ゼノブレイド』の音楽制作に取り掛かったのは、今から15年以上前のこと。ユニバーサルミュージックからメジャーデビューした経歴も持つ彼らにとって、「歌」はユニットの核だった。
「だからゲームのサントラでも、『歌えるゲーム音楽』をやりたかった。ゲームを邪魔せずに盛り上げるけど、プレイヤーが思わず鼻歌で口ずさんでしまうような、メロディーラインがしっかり立った音楽。ふと耳にした時に『またゲームがやりたい』と思ってもらえるような、そんな相乗効果を生み出したかったんです」
そうして生まれたのが初代「ゼノブレイド」。
その挑戦は、シリーズごとに進化を遂げる。初代『ゼノブレイド』では、壮大な世界観と熱いストーリーと絡まるメロディを重視し、弦楽カルテットやギターとシンセサイザーを融合させたハイブリッドサウンドを作り上げた。
『ゼノブレイド2』ではその路線を継承しながら、フルオーケストラとロックを組み合わせたゴージャスなサウンドを構築。
番外編ではジャズを取り入れ、最新作『ゼノブレイド3』では、ACEは、バトル曲では歌えるメロディーを貫きつつ、フィールドの音楽はどこまでも広がる世界観に溶け込むアンビエントな音像を追求するなど、常に新しい表現に挑み続けた。

※『PRESS START -Symphony of Games-』 GUITAR:工藤ともり(ACE)
しかし、その創造の裏側は熾烈を極めたという。
「『ゼノブレイド2』の時に、採用されたのは44曲。でも、私たちのチームは1つの依頼に対して最低でも2、3曲は提案するので、少なくとも100曲は作っています。何度も作り直した曲もありましたし、特にACEの全楽曲のプロデュースと最終アレンジ、プログラミングを担っているともりは、かなりハードだったと思います」
謙遜しながらも、CHiCOさんは続ける。
「でも、何かを本気で生み出すことはどんなジャンルでも大変ですし、もっと凄まじい時間を過ごされている方はたくさんいると思います」
とはいえ、その制作の過酷さを象徴する出来事が起きる。別の仕事でミックス作業をしていた時、ともりさんは、その傍らで最後の曲を書き上げていた。新年を告げる鐘が鳴った、まさにその瞬間。
「鍵盤の上に、突然ともりが血を吐いたんです。寝てないし、無理がたたって。うわーってなって」
現場にいた担当者は、しかし、救急車を呼ぶでもなく、黙ってそれを拭き、ドリンク剤をポンと置いたという。まさに「戦場」だ。
「そんな状況でも淡々と締め切りを守らせるプロデューサーさんがさすがだなと驚きました(笑)。でも、おかげで無事納品できましたし感謝しています。改めて『プロってすごいな』って思いましたね」
なぜ、そこまで自分たちを追い込めたのか。「約束を破りたくなかったし、プライドもあった」と前置きして、CHiCOさんは確信に満ちた声で続けた。
「一番は、喜んでくれるファンの顔が浮かんでいたから。その人たちにちゃんと届けたい、この素晴らしいゲームの世界観を絶対に壊しちゃいけない。その想いだけだったかもしれません」
自分との約束も守る。血を吐くほどの創作は、ファンへの愛と、作品への誠実さの証だったのだ。
「信じ抜く目」と才能の輝き――トップアーティストとの出会い
ボイストレーナーとしてのCHiCOさんの真髄は、相手の才能を「信じ抜く目」にある。その目は、既にまばゆい輝きを放つ天才の未来を見通し、同時に、まだ何者でもない原石の中に眠る可能性をも見出す。

その慧眼を物語るのが、EXILE ATSUSHIさんとの出会いだ。
「ATSUSHIは、元から歌がうまかったし、私が見た時にはもう完成されていた感じですね」とCHiCOさんは振り返る。彼女の役割は「育成」ではなく、「発見し、信じ、背中を押す」ことだった。
ATSUSHIさんとの出会いは、彼が音楽学校に在籍していた頃。担当クラスではなかったが、その噂はCHiCOさんの耳にも届いていた。
「担当の講師や学年の女子生徒たちから、彼がいかに素敵かという話をよく聞いていたんです(笑)。学内コンテストで初めて歌を聴いた時、『来た!』って。なんて色気のある声なんだろうと衝撃でした。多数の女子生徒から、歌ではなく彼への熱い恋の相談を受けていましたね(笑)」
彼はオーディション番組『ASAYAN』で注目を集めるも、デビューには至らなかった。「この才能をこのままにしていてはいけない」。使命感にも似た想いで、CHiCOさんは行動に出る。
「もちろん、ATSUSHIは彼自身の魅力と実力で、遅かれ早かれプロとしてデビューしただろうとは思いますが、それでも、私は彼が絶対にすごいシンガーになると信じていたから、知り合いの事務所に『ちょっと行ってみる?』って連れて行ったんです。そしたら、歌も聴かずに『合格』って。見る人が見れば、一瞬でわかるんでしょうね」
しかし、CHiCOさんの「信じ抜く目」が真価を発揮するのは、むしろゼロから伴走する生徒たちとの時間の中にある。
「養成所では、生徒さんと一緒にデモテープを作り、プロのバックバンドをつけて業界関係者を招いたプロモーションライブも開催しました。全オリジナル曲で、今考えてもとても豪華でしたね」
その特別なライブに、信じられないゲストが駆けつけた。既に絶大な人気を誇っていたATSUSHIさんだ。
「まさか本当にATSUSHIが来てくれるなんて思っていなくて。でも彼は、忙しい合間を縫って来てくれたんです。音楽の才能だけでなく、そういう本当に心の温かい人なんだと思います」
彼はただゲストとして顔を出すだけでなく、客席で終演まで後輩たちのステージを優しく見守った。そして、気になった小学生のシンガーソングライターにはCDにサインをし、「頑張ってね」と直接応援のメッセージを贈ったという。
その養成所からは、俳優、シンガー、作詞作曲家など、CHiCOさんが幼少期から伴走し、共に考えながらデビューしていった才能が数多く生まれている。

CHiCOさんは、才能の本質をこう語る。
「ATSUSHIのように、元から自分で道を切り拓く力がある人もいる。でも、どんな子にも言えるのは、誰に何を言われても、自分が本当にやりたいと信じたことを曲げない強さが大切だということ。才能は、最初から眩しく光っているとは限りませんから」
天才を見出す慧眼と、原石を磨き上げる情熱。その両輪があってこそ、CHiCOさんのボイストレーナーとしての揺るぎない実績は築かれているのだ。
すべての始まり――「ガラガラ声」のコンプレックス
なぜCHiCOさんは、そこまで人の声と才能に寄り添えるのか。その答えは、彼女自身の壮絶な原体験にあった。
「子供の頃、ものすごいガラガラ声だったんです。音楽の授業では、先生に『悪い例』として前に出されるくらい。国語の本読みで当てられたくなくて、いつも机の下に隠れていました」
歌は好きだったが、合唱団では一番低いパートに回され、低音の良い声が出ずに罵倒される日々。声を出すこと、それ自体が怖かった。
そんな彼女の人生を変えたのは、高校時代の音楽の先生だった。ある日、授業後に呼び出され、震えながら音楽室へ向かうと、先生はこう言った。
「『あなた、歌が好きでしょ。私が発声を見てあげるから、みんなが帰った後に来なさい』って。もう、その時のことを話すと今でも泣けちゃうんですけど……」

※左よりSTEVIE(44MAGNUM)、遠藤フビト、CHiCO(ACE)、小林太郎
マンツーマンのレッスンで、彼女の声はみるみる変わっていった。そして先生は告げる。
「『あなた、ソプラノよ。とても綺麗な高い声が出るわ』って。それまでのコンプレックスがすごすぎて、にわかには信じられませんでした」
その経験から「発声ってすごい。なんて奥が深いんだ」と目覚めたCHiCOさん。しかし、当時は俳優を目指しており、大学を中退してプロの劇団へ。だが、趣味で始めたバンド活動の「楽しさ」が、芝居の「辛さ」を上回った時、彼女は音楽の道へ大きく舵を切る。
「声へのコンプレックスがあったから、誰にも言わずに海外の文献まで取り寄せて、発声の知識をとにかく集めまくってたんです。一種の“裏ボイトレオタク”ですね(笑)。その知識が、後に教える側になった時に全部活きてきた。壮絶なコンプレックスが、いつの間にか私の最強の武器になっていたんです」
芝居の経験から、歌だけでなく「話す声」についても深く研究したという。
「長時間教えるボイストレーナーや、声をよく使うスポーツ指導者の方など、ぜひボイトレをして差し上げたいなと思う方が沢山います。息子の習い事で声を枯らしている先生を見ると、つい声をかけたくなりますね。息子に怒られるから我慢してますけど(笑)」
悩めるあなたへ――「自分だけの武器」の見つけ方
「周りの声に従ってばかりだと、自分の才能はだんだん小さくなっていくんです。だから、他人の“正しさ”に違和感を持ったら、むしろチャンスかもしれません」
インタビューの最後に、自分の道がわからず悩んでいる読者へのメッセージをお願いすると、CHiCOさんの言葉に一層熱がこもった。

「まず伝えたいのは、何かに対して悩んだり、苦しいと思ったりしている時点で、あなたには才能があるってこと。例えば私、料理が下手なんですけど、全然悩まない(笑)。でも、歌や曲が良くないって言われたらこれでもかというほど落ち込む。自分が本当にやりたい、才能があることだから、悩むんです。だから、悩む権利を与えられたあなたは、まず神様に選ばれている。そこは自信を持ってほしい」
では、どうすればその才能を形にできるのか。
「努力しなくても、自然にやっちゃってることに目を向けてみてほしいんです。推し活でも、料理のこだわりでも何でもいい。そういう“当たり前”のことって、自分では価値に気づけないけど、他人から見たらすごいことだったりする。そこに、あなただけの武器が眠っています」
さらに、CHiCOさんはユニークで具体的なメンタルメソッドを教えてくれた。
「孤独な時は、自分の中に、マネージャー(もう一人の自分)を作るんです。名前は佐藤くんでも何でもいい(笑)。その佐藤くんが、クリエイターであるあなたを客観的にプロデュースする」
例えば、締め切りを設定したり、できた曲をレビューしたり、その役割分担は創作以外の時間にも及ぶ。
「『何日までにこの曲をあげなさい』って、メールを送る(自分から自分への指示だけど、マネージャーが送るようなイメージでね)。アルバイトをしてる時は、それは佐藤くんの仕事。『佐藤くんが自分のために稼いでる』って思うんです。アルバイトもマネージャーがやってくれてると思えば気が楽でしょ?アーティストのときはプロとしてのプライドを持って、そのことだけをしてるテイ(笑)」
なぜなら、とCHiCOさんは続ける。
「一見バカみたいだけど、これが意外と効くの(笑)。自分を切り離して客観視すると、自分でも知らなかった第六感が開いて、答えが見つかるんです」
目指す先の未来を言葉にして、書くこと、口に出すこと。自分を客観視し、信じてあげること。その小さな一歩が、霞のように見えた夢への道を照らし出す。
未来へ――「声」で、笑顔を増やす

「実は今、ボイストレーニングの学校を立ち上げているところなんです」
CHiCOさんは、輝くような笑顔で未来の夢を語ってくれた。プロ向けだけでなく、一般の人も対象に「声のアンチエイジング」や「コンプレックスからの脱却」をサポートしていきたいという。
「昔歌えたのに声が出なくなった、という同世代の友人に教えたら、また声が出るようになって。すごく喜んでくれたんです。私が普段から自然にやってきたハイトーン維持のメソッドが、人の役に立つんだって改めて気づかされて」
ホールを貸し切って、プロのミュージシャンの生演奏で歌う発表会など、誰もが主役になれる、ワクワクするような企画も考えている。
「私がやってきたことを、悩んでいる人のために還元したい。与える、教えるなんて偉そうなことじゃなくて、声が素直に気持ちよく出る楽しさを、沢山の人たちと分かち合いたいんです」
声のコンプレックスという絶望の淵から、音楽という光を見つけ、今度は自らが光となって誰かを照らそうとしているCHiCOさん。彼女の物語は、自分の価値を信じきれないすべての人に、力強いエールを送っている。

チコトレYouTubeチャンネル
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※後方:BASSアベノブユキ 写真:中村ユタカ
赤峯豪
ライター/シンガーソングライター 自身もシンガーソングライターとして活動。同じ表現者としての視点と共感を武器に、アーティスト・クリエイターの魂に深く寄り添い、その核心に迫るインタビューを得意とする。 https://akaminego.edire.co/
