ポエトリー・オン

震災、ぷらそにか加入、独立。歌手活動10周年の岸辺紗采が振り返る「裏切りたくない」という人生の歩み方 

2026.06.10

 夢を叶えるため、ひたむきにがんばること。それは人生の希望の光になる。しかし、思うような結果が出ない日々が続くと、「才能がないのでは」「本当に夢を叶えられるのか」と、自分を信じられなくなるときもある。

 今回は、歌手活動10周年を迎え、初のCDリリースもした岸辺紗采にインタビュー。舞台に立ち始めた中学時代から、独立を経た現在までを振り返りながら、なぜ彼女は「歌うこと」を諦めなかったのかを聞いていく。

音楽の力を感じた瞬間は、「地震のとき、母が机の下で歌った『チューリップ』

※音楽活動初期のイベント参加時

――歌手活動10周年ですが、音楽に触れたのはいつからなのでしょうか?

岸辺:「モーツァルトと同じ誕生日だし、音楽の才能があるかもしれない」と思い、2歳からエレクトーンを習い始めました(笑)。でも実は、私がお腹の中にいたころから、母が音楽を聴かせてくれていたそうです。母が音痴なので、子どもはそうならないようにと(笑)。おかげで、1歳の頃にはリズムに乗るのが大好きな子になっていました。

※初めて人前で歌を披露した親戚の結婚式

――当時はどのような音楽に興味をもったのでしょう。

岸辺:両親が洋楽が好きなこともあり、マライア・キャリーやセリーヌ・ディオンなどを聴いて興味を持ちました。小学4年生から通い始めたボイストレーニングでは、ハーフの先生が担当でずっと洋楽で練習していたので、私の歌のルーツの一つは洋楽ですね。

――小学生というと、2011年の東日本大震災では、当時は東北に住んでいたそうですね。

岸辺:はい。当時は、岩手県の盛岡市に住んでいて小学4年生でした。すごく大変な出来事ではありましたが、私の中では「音楽の強さ」を感じた体験でもあって。

地震があったとき、父は会社に行っていて、早帰りしていた私含め3姉妹と母が家にいました。揺れ始めて机の下にもぐったのですが、すぐ収まるかなと思ったら全然収まらなくて。3姉妹と母でぎゅっと抱き合って落ち着くまで待っていたんです。

怖くて仕方がなかったそのとき、母が急に「さ~い~たー、さ~い~たー」と、童謡の「チューリップ」を歌ってくれたんです。そのおかげで3姉妹が泣くことなく落ち着いていられて、「音楽ってすごく力がある」と思いました。

「恋」の正体を知った少女

※2023年1月バースデー企画ライブ時

――高校生のときから作詞作曲して歌手活動をされていたそうですが、現在までに何曲あるのでしょうか?

岸辺:未完成曲も含めると30曲くらいはあると思います。

――30曲もあるんですね。今回リリースしたCDでは、30曲の中から「だって」を選んだそうですが、なぜこの曲を選んだのでしょう。

岸辺:自分がこれまで作ってきた曲の中でも自信を持って世の中に出したいと思えた曲で、ライブでは最後の曲として頻繁に使うほど思い入れがあるからです。配信リリースは別の曲で2023年にしていましたが、CD制作は今回が初めてだったので、絶対に「だって」は入れたいと思いました。

――どの部分が「自信を持てた」と思うのでしょうか?

岸辺:音楽的な要素で言えば、全体的に歌詞がキャッチーで、後半の盛り上がりもエモーショナルなところです。聴いてくれる方に響く仕上がりになったうえ、自分の一番いいところと感じている声の伸びや繊細さなどを表現できたんじゃないかなと思っています。

――「大切な人」と歌詞に出てくるのが気になります。どんな経験や思いで作詞したのでしょうか?

岸辺:高校2年生のときに作ったのですが、それまで恋愛経験がほとんどなく、恋愛ソングを書いても現実味が出せずにいました。

そんなとき、なにげなくInstagramを見ていたら、「自分の気持ちを打ち明けたら、関係性が変わってしまうかもしれなくて、なかなか言えない」というポエムが流れてきて。「明確に今好きな人はいないけど、そういう気持ち、分かるなぁ」と初めて共感できたんです。それでビビッときて、2時間で作詞作曲して曲が完成しちゃいました(笑)。

「ぷらそにか」に加入し、同世代の仲間と切磋琢磨する日々

※2025年6月ぷらそにか卒業コンテンツ撮影オフショット

――その後は大学に進学したそうですね。高校生のときと比べて音楽活動では変化はあったのでしょうか。

岸辺:高校生のときは地元・宮城の音楽イベントや、公園で開催されるビアフェスなどにゲストとして出ることが多かったのですが、大学生になってからはライブハウスに出ることが増えました。

また、「ぷらそにか」としても活動するようになったのも大学生のときです。

※Bye by me - Vaundy Covered by 岸辺紗采

――「ぷらそにか」での活動は、岸辺さんにとってどのような経験だったのでしょう。

岸辺:自分の近くには、年の近い音楽仲間があまりいなかったんです。「ぷらそにか」に入って、同世代でこんなにも音楽にひたむきな人たちがいるんだと気が付きました。

加入前はビジネスライクな関係を想像していましたが、実際はお互いに高め合うような雰囲気で、まさに刺激的な日々だったのをよく覚えています。活動のなかでギターの技術も向上し、新しい奏法やアレンジを身に付けることができました。

※サヨナラCOLOR / SUPER BUTTER DOG (cover)

――シンガーソングライターとして活動してきた岸辺さんにとって、複数人で歌うことはまた違う刺激があったのでしょうか?

岸辺:そうですね。以前もサポートの方に演奏してもらって歌う機会はあったのですが、改めて、誰かと音を奏でることはとても楽しいなと思いました。

「ぷらそにか」にはシンガーソングライターが集まるため、ギターやピアノを弾ける人はたくさんいます。一方でリズム隊を担える人は少なく、できる人ががんばってやるスタイルをとっていたんです。私はその環境をチャンスにベースとカホンを本格的に学び、音楽の幅を広げることができました。

※レイニーブルー / 徳永英明 (cover) カホン演奏時

※ときめき / Kucci (cover) ベース演奏時

――2025年には、「ぷらそにか」を卒業されていましたね。卒業するときは寂しかったですか?

岸辺:いつかこういう日が来るとわかっていたので、寂しさもあるのですが、それよりも「もっとがんばろう」と前向きな気持ちの方が大きかったです。

10年の歌手としての歩み。やめたいではなく「悔しかった」

※2024年ぷらフェス(年に1度のぷらそにかとしてのライブ)出演時

――アーティスト活動10年のなかで、正直、やめてしまいたいと思ったことはあるのでしょうか。

岸辺:やめようと思ったことはないです。ただ、大学を卒業してから「悔しい」という感情が芽生えました。社会人になってからは、最年少だったはずの対バンライブで気が付けば最年長になることもあって。

年下の子のステージを観たときに「自分よりも生きた年数が短いのに、なんでこんなにも素晴らしいパフォーマンスができるのか」と、胸が締め付けられるような感覚を覚えることも増えていきました。そこから、「才能がないんじゃないか?」「私は売れるのかな..」と、どんどん不安になっていって……。

――嫌な考えも巡ることがあるなかで、なぜそれでもアーティストを続けてこれたのでしょう。

岸辺:ふたつ理由があって、ひとつが音楽がめっちゃ好きだということ。ライブ中は、会場に気持ちよく声が響く感覚や、来てくれる方の顔を見ながら歌う瞬間がやっぱり楽しくて「あ、やめられないな」と思ってしまいます。

ふたつめは、ありきたりかもしれないですが、家族や友達、10年ずっと音楽を応援してくれてるファンの方がいてくれるから。

ファンの方からはライブの度にうれしい言葉をいただいたり、母には「もう無理かも」とLINEで相談すると「紗采の歌はめっちゃいいって思うから、そのまま続けたほうがいいよ」と背中を押してもらったり。周りの人がいたからこそ、今までアーティストとして活動できたので、「応援してくれる人たちを裏切りたくない。続けられるとこまでやっぱ続けよう」と、いつも立ち上がってこれたのだと思います。

――CDに収録されている「From now」の紹介文でも「これまで奏でてきた音楽や、積み重ねてきたもの、応援してくださっている全ての人を裏切りたくないから弱い自分にも不条理な世界にも負けないという気持ちを込めた」と書いてありましたね。

岸辺:もし、今アーティスト活動をやめてしまったら、10年ずっと応援してくれる家族や友達、ファンの方や、思いを込めて作った楽曲たちを、裏切ることになってしまうので、やっぱりそれはしたくないと思いました。「Love Me」は自己嫌悪してしまう弱い自分から生まれた楽曲なので、そんな自分にも打ち勝ちたい気持ちも込めています。

――アーティストの方だと「期待に応える」という文言を目にすることが多く、「裏切りたくない」という表現がめずらしいなと思いました。なぜ「裏切りたくない」という言葉で表したのでしょう。

岸辺:まず私は、「自分を主語に置く」を生き方のスタンスとしていて。

自分が楽しいと思ったことをしながら、自分を大切にマイペースに進んでいくタイプなんです。そんな私を周りの人は見守りながら、肯定するように応援してくれます。大切な人の「期待に応えたい」という思いもありますが、大切な人を「裏切りたくない」という言葉がまっさきに思い浮かんだのだと思います。

心が折れそうな人へ。「もっと自分よがりになっていいよ」と伝えたい

――岸辺さんの今後の目標や夢を教えてください。

岸辺:直近の目標は、2027年の1月に東京と仙台で開催するバースデーライブを成功させること。そしていつか、日本武道館や東京ドームなどの大きな会場でライブをすることが、私の夢です。

――最後に、なにかを続けたくても心が折れてしまいそうな人に、岸辺さんならどのような声をかけますか?

岸辺:実際渦中にいると、思うようにいかないことだらけなのは私にもわかるので、簡単には言えません。

でも、もし声をかけるなら「もっと自分よがりになっていいよ」と伝えると思います。私は、自分の信念は貫き通しつつも、相手が悲しむことや嫌な思いをすることはしない、と決めています。アーティストとしても、ひとりの人間としても、関わる人には喜んでもらいたいし、楽しんでもらいたいので。

自分を主語に考えつつも、ほかの人が嫌な思いをしなければ、どんな選択をしてもいいのではないでしょうか。

■公演情報

『うたかたの夜 75』
日程:2026年6月11日
時間:OPEN 18:45 / START 19:15
会場:MELODIA Tokyo

『リヴィングルーム floor114』
日程:2026年6月13日
時間:OPEN 18:30 / START 19:00
会場:新宿Circle

Shibuya Street Live※公認路上フリーライブ
日程:2026年6月30日
時間:START 18:00
会場:Shibuya Sakura Stage SHIBUYAサイド2階 桜丘広場

『風と音のスクランブル』※アーティストワンマンライブ応援企画
日程:2026年7月5日
時間:OPEN 11:30/ START 12:00
会場:渋谷gee-ge.

『YUMU FES2026×天空と青い月 Presents Blue Moon』
日程:2026年7月11日
時間:OPEN 14:00 / START 14:30
会場:MELODIA Tokyo

The NextStep,To TheStage
日程:2026年7月31日
時間:OPEN 18:00/ START 18:30
会場:阿佐ヶ谷 Live Bar ロンサム

詳細後日公開
日程:2026年8月22日
時間:後日公開
会場:東京音実劇場

The NextStep,To TheStage
日程:2026年9月10日
時間:OPEN 18:00/ START 18:30
会場:阿佐ヶ谷 Live Bar ロンサム

『Birthday Live 2027 in Tokyo』※岸辺紗采企画ライブ
日程:2027年1月23日
時間:OPEN 19:00/ START 19:30
会場:大塚Welcome back

『Birthday Live 2027 in Miyagi』※岸辺紗采ワンマンライブ
日程:2027年1月30日
時間:OPEN 18:30/ START 19:00
会場:鹿落堂

■関連リンク
<岸辺紗采>
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彩楓

栃木県在住のフリーランスライター。取材記事やエッセイ執筆などをする。SEKAI NO OWARIに人生を救われ、最近は韓国アイドルや国内の男性アイドルにも注目。言語化が好き。X、noteのアカウントは「@ayaka_ede」。