ポエトリー・オン

「人生を変えた60秒の朗読」鮎沢詩が涙目で見た地下アイドルの現実と夢

2025.03.25

「小さな劇場では、あなたの知らないドラマが日々巻き起こっている」

ライブシーンを中心に活動する「地下アイドル」。ステージに立つ華やかな職業であるものの、各事務所から毎日のように報じられているのは グループ脱退や解散の知らせだ。

そんな厳しい世界である「地下アイドル」の道をあえて選択する人たちは、一体どのような人生を歩んできたのか。夢を追うなかでの現実には、何が待っているのか。

鮎沢詩さんは、朗読劇を軸にした唯一無二のパフォーマンスが魅力の『異国のルミナリア』のメンバー。

結成1年半を記念するワンマンライブを控えるタイミングで、地下アイドルになるまでの経緯や、未来への思いをインタビューした。

異国のルミナリア連載【異国の交差点(クロスロード)】第1回

第2回:「イジメに打ち勝つお姫様」みるき♡ほの がピンクの髪で切り開いた自分だけのアイドル像

第3回:「あなたと再会したい」大舞台を経験した夢咲あいりが地下アイドルにこだわる理由

「親に言い出せなかった」声優の夢を描いていた子ども時代

メンバーカラーはゆるふわイエロー。穏やかな空気をまといながら登場した鮎沢詩さんに、まずはいつからアイドルを志したのかを聞いてみた。

「私は子どもの頃から、声優の夢を叶えるために努力を続けていました。つまり『異国のルミナリア』になるまでは、アイドルになることは想像すらしていなかったんです!」

中学2年生の頃、仲の良い友人とアニメを本格的に見だしたことが、声を使う仕事を知るきっかけだと話す鮎沢さん。彼女の心を打ったのは、声優がもつ本質そのものであることも続けて教えてくれた。

「私は当時から、”なんだか上手く生きれない”感覚を常にもっていました。『なんでいま勉強を頑張っているんだっけ?そもそも私ってなんだろう?』と自分を妙に客観視してしまうことがあり、毎日を心から楽しいと思えない生活を送っていて……」

「そんななか、声優という仕事を知ったときは『どんな存在にもなれる』ことに魅力を感じて止みませんでした。いろいろな年齢や職業、もはや人間でない存在にもなれてしまう事実に、私が上手に生きていくためのヒントが詰まっている気がしたんですよね」

もともと、小学生の頃から朗読が得意だったと話す鮎沢さん。周りと比べて流暢に物語を紡げることは、当時は自己肯定感が低かった彼女のなかでも、数少ない前向きになれる要因だった。

人生の目標を見つけた鮎沢さんの毎日は、声優との出会いを機に変わっていく。

「『なんで私は生きているのかな。』とまで考えていた人生。声優になる夢をもってからは、これまでとは違った景色が見えてきました。大勢の前で話すのが大の苦手だったはずなのに、声優になるための練習だと思った途端、自然と身体が動くようになって。心の健康を取り戻したような気分に、毎日ワクワクしていたのをいまでも覚えています」

「自分なりに調べてみると、声優を叶える第一歩の『養成所』には、高校生から入れることがわかりました。同時に、実際に仕事をもらえる人はほんの一握りである事実も判明し……。私の両親は公務員で、子どもながらに安定志向なイメージがありました。娘がいきなり不安定な世界に行きたいなんて話したら、きっと心配させるに違いないと、当時は頭を悩ませました」

そのような状況のなか、鮎沢さんが考えたのは、”努力を形にして見せる”ことだった。県内の高校でも有数の実力をもつ「放送部」に入り、大会における朗読部門での”個人賞”獲得を目指した。

「自分が本気だと証明できるものがあれば、両親も少しは安心してくれると思ったんです。ただ、放送部のある高校は偏差値が高く、まずは勉強を頑張る必要がありました。『声優になりたい』その夢に一直線だった私は、自然と机に向かい続ける日々をスタートさせました」

努力は実り、無事に志望校へ合格した鮎沢さん。実際の高校生活はどのようなものだったのだろうか。

「とにかく放送部が、すごく楽しくて。基礎練習でただ声を出しているだけでも、幸せな気持ちで胸がいっぱいになっていました。そして、当たり前のように練習に精を出す日々を送っていたら、1年生の秋の大会で個人賞をもらうことができました」

そしていよいよ、両親に自分の夢を伝える日を迎えた。

「いざ両親を目の前にしたとき。どうしても、どうしても言葉が出てきてくれませんでした。心配なんか絶対させたくないのに、夢も諦めることはできなくて。何も伝えられないまま、涙だけがポロポロと流れていき、1時間は経っていたと思います。ようやく、絞り出すように『声優になりたい』ことを伝えたら『良いんじゃない?』と予想外の一言が……」

思い返してみると、鮎沢さんがやりたいと思ったことを、両親はすべて挑戦させてくれたという。普段は消極的なのに、なぜか興味をもった「よさこいソーラン」も、小学1年生から卒業するまで続けさせてくれた。

「ありがとうって、思いました。」とゆっくり話す彼女は、優しくて透き通った声をしていた。

「夢やぶれて留年」残ったのは努力のあとだけ

両親に背中を押され、高校2年生の春から声優の養成所への入所を決めた鮎沢さん。地元の栃木県からは1時間30分以上かかる距離でも、放送部と並行しながら通い続けた。

「養成所では、まさしく”現実”を見ました……。声優を本気で目指す人と関わったのは初めてで、あまりの実力の違いに心がポキっと折れそうになりました。声だけでなく演技のレッスンも積極的におこなわれていたので、未経験の私は戸惑うばかり。一番つらかったのは、コミュニケーション力や積極性の差を見せつけられたことです。一人ずつ実演をするときに、我先にと手を挙げていく子たちを見て、もともと引っ込み思案だった私は『自分はこの場所にふさわしくないのかな……。』と心のなかで涙を流していました』

発表会のときには、実力の高い生徒ばかりが主要な役に抜擢され、鮎沢さんの出番はほぼなかった。そんな状況のなかでも、声優になりたい思いだけは消えずに通い続けた結果、徐々に評価をされるようになったという。

「受験期には一度休みつつも、大学に通ってからもレッスンを受けていたら、どんどん上のクラスへあがっていきました。しかし、そのタイミングで訪れたのが新型コロナウイルスです。大学もリモートになり、養成所も活動がストップ。当時はこの先どうなるのかわからず混乱していたせいか、目標がなかった頃のマイナスな自分に、すっかり戻ってしまいました」

ようやく世間が動き出してきたあとも、漠然とした不安を抱えたままだった鮎沢さん。みずからの心にムチを打ち、どうにか養成所へ再び通った先に待っていたのは、”選ばれない”自分だった。

「所属していた養成所の場合、100人中2、3人がようやく声優見習いになれるのが現実です。そして結局、私が日の目を浴びることはありませんでした。もっと一人ひとりを見てくれる規模の小さなところに通い直しても、Vライバーとして活動する以上のお仕事がもらえず、私が目指していた声優にはなれないまま活動が終わってしまいました。そしてどんどん、家に引きこもりがちな生活に……」

鮎沢さんいわく、当時のことは「闇期」と呼んでいるらしい。夢を諦めざるを得ない現実のなか無気力になり、ついに大学を留年してしまった。

「やはり私は、夢がないとダメな人間なんだと思いました。そして、どうにか前向きになれる手段はないかと思ったときに見つけたのが『異国のルミナリア』のオーディションです。募集要項には、声優や演劇の活動もおこなうことが書いてあり『私にぴったりだ!』と思いました」

消極的な自分にアイドルが務まるのか心配だったものの「やりたい」気持ちが止まらず、未経験の歌とダンスをオーディションで懸命に披露した。

「一番の問題は、もっとも苦手とする自己PRタイムです。与えられた60秒のあいだ、私がただただおこなったのは、物語の”朗読”でした。どうせほかの人と比べられてしまうなら、得意なことを思いっきり披露しようと思ったんですよね。ほどなくして、オーディション合格の通知が届いたときは、これまで”声”とともに活動してきた自分に感謝しました」

「現実を知っているからこそ」明日をもっと大切に生きる

晴れて『異国のルミナリア』のメンバーになった鮎沢さんは、デビュー公演に向けた練習をスタートさせる。

「もちろん、慣れないレッスンの日々は大変でした。なんといっても、まだデビュー前の状態だったので、自分たちで集客しなければならないところには苦労しました。フライヤー配りがとにかく苦手な私は『知らない人に渡すなんて無理……。』と思いながらも、どうにか頑張っていたのを覚えています。ただ、一つひとつの活動にアイドルらしさを感じられ、日々にトキメキを感じていたのも事実です」

そうして鮎沢さんが初めて立ったアイドルのステージは、300人の超満員だった。イエローのペンライトを向けられ「うーたん」とコールがかかる経験に、抱えていたすべての不安が喜びに変わった。

「デビューをしてから約2ヶ月後、ゲームキャラクター声優にチャレンジさせてもらえることになりました。これまでの日々が報われた瞬間に涙が止まりませんでしたが、予想よりも早い夢の実現に、どこかポカンとしてしまう自分も……。ただ同時に、このグループを全力で続ける決意ができた瞬間でもありました。いまでも、アイドルとして評価されることが、声優の仕事にもつながっていくと信じています」

鮎沢さんが『異国のルミナリア』として活動してから、1年半が経とうとしている。

本人からは「もう5年いるかと思うほど、このグループでの生活は濃い。ただこうして振り返ってみると、あっという間だったようにも思えて不思議」と、がむしゃらに走ってきた人間ならではの答えをもらえた。

最後に、デビュー1年半を記念するワンマンレビュウ(ライブ)を控えた鮎沢さんに、ステージへの思いを聞いた。

「ステージに飛び出したら、客席がガラガラだったときの虚しさとか。グループではなく、自分のファンを増やしていく大変さとか。地下アイドルならではの現実と苦労を、これまでたくさん経験してきました。ただ、アイドル2年生になった私は、努力の積み重ねのなかで、応援の声はかならず大きくなっていくことも知っています。3月28日のワンマンレビュウまであとわずか、変わらない日々をより大切に過ごしていきたいです」

「そして本番では、一人のアイドルとして、自立した姿を見せたいと思っています。いままでは、ずっとメンバー2人の優しさに甘えてきたから。『異国のルミナリア』の一員として、自分から行動を起こす意識で活動できていることを、舞台の上で証明するつもりです」

鮎沢詩(@ik_utaa

3/28(金) 異国のルミナリアワンマンレビュウ公演「異国のepisode Ⅰ -REVISITED-」

【会場】渋谷スターラウンジ

【時間】OPEN18:00/START19:00

【チケット情報】http://tiget.net/events/375670

異国のルミナリア連載【異国の交差点(クロスロード)】

第2回:「イジメに打ち勝つお姫様」みるき♡ほの がピンクの髪で切り開いた自分だけのアイドル像

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川上 良樹

『ポエトリー・オン 』編集長
エンタメ・ビジネス領域にて多数のインタビュー記事を執筆。 舞台の表側だけでなく、裏側にもフォーカスした取材をおこなう。https://kawakamiyoshiki.edire.co/