学校のチャイムが鳴り、幕が上がる。そんな光景を、47都道府県に届けようとしている人がいる。
エンタメチームimgの主宰・谷口航季さんが2025年11月に発表した『KIKKAKE CARAVAN』は、全国の学校へ生の演劇を持ち込む巡回プロジェクトだ。
チケット代も、劇場への移動も必要ない。ただ、授業の合間に、あるいは放課後に、学び舎へ物語がやってくる。
2026年3月10日、その第一歩が踏み出された。場所は、谷口さん自身の母校。「生のエンタメ体験を通じて学生に"心と人生が動き出す一日"を届けること」を掲げるこのプロジェクトが、どこから生まれ、何を目指しているのか。
初公演を終えた谷口さんに話を聞いた。
取材・文・撮影:moi

谷口航季さん
ー 学校公演、開催おめでとうございます!まずは、谷口さんが学生へ舞台を届けたいと思ったきっかけを教えていただけますでしょうか。
2024年、"ありのままで生きること"を問いかける群像劇を上演した際、客席に中学1年生の女の子の姿がありました。その子は人生初の観劇だったにもかかわらず、最終的に4回リピートしてくれたんです。
話を聞いてみると「中学に入って環境が変わり不安だったけれど、登場人物たちの姿が明日を生きる活力になった」と。
この子のように、舞台をきっかけに青春へ光差す体験をしてもらうことは、誰かがやらなければいけないと感じたのが原点です。
ー そこから、学校公演という形に結びついた経緯を教えてください。
自分の軸にあるのは、SMAPなんです。彼らは、日常のどんなときでもテレビの向こう側にいて、あらゆるアプローチで人の心を動かし続けた人たちでした。
自分もエンタメをやるからには、誰かのきっかけを作る側でいたいという気持ちが根本にあります。

学校公演も、その一つです。学生が舞台を観るようになれば演劇界はもっと盛り上がっていくはずなのに、いまはチケット代が上がり足を運びにくい状況が続いています。
それなら舞台側が学校へ出向いて、学生の演劇へのハードルを下げることをはじめてみようと思ったんです。
ー 初公演は谷口さんの母校での開催となりましたが、まず開催決定までの道のりを教えていただけますか?
学校公演をやる!と決めたのは2024年です。
2025年は学生への招待など具体的な動き方を模索する期間に充て、2026年に実行の一歩手前まで持っていく——そんなスケジュールをざっくり描いていました。
並行して、公演を観に来てくださっていた先生方に「学校で公演を開催したい」という話を伝えていたんです。すると元担任の先生が、ちょうど伝統芸能などの観劇を授業で扱う担当の方で……そこからとんとん拍子に話が進みまして。
2025年12月頃に相談を始め、学校から許可が下りたのが2026年1月半ば。想定より早く実現することになりました。

ー ものすごいスピード感で展開していきますね。急ピッチといいますか。
本当に急ピッチ。スタッフ周りの方には前から話をしていたのですが、出演キャストを集めるのは公演確定の1月半ばからだったので苦労しましたね。
「声をかけやすい顔ぶれだけで固めて、果たして学生に足を運んでもらえるのか?」などいろいろ考えながら進めていったのをよく覚えています。
稽古期間も全体で13日程度。1人あたりだと7日ぐらいの稽古だったのかな?キャストが全員揃った日も本番合わせて2回ぐらいという条件のなか、短期集中でテンションを維持しながら臨みました。
何もないところからスタートさせるこの学校公演、結構ハードルが高いことは理解していました。
ー 実際に公演を行ってみて、学生さんたちの反応はいかがでしたか?
僕は最前列にいたので観劇の様子を直接は見ることはできなかったのですが、終演後に学生たちと話したり、書いてくれたアンケートを読んだりして、すごいちゃんと観てくれたんだなと感じましたね。

この作品は3つの時代が描かれていて、前情報なしで観ると「あれ、これどこの時代だ!?」と混乱しちゃう方もいます。
でもそういった意見は全くなくて、集中度高く観てくれてたのかなって。しっかり届くんだな、そして理解を示してくれるんだなと感じることができました。
そもそも今回の公演は授業の一環ではなく、自由参加方式だったので何人来るかも想像がつかなかったんですよ。
3年生は登校日じゃないし、1~2年生はテスト期間の最終日。朝は雪も降っているという状況で(笑)。そして演劇へのハードルもある中で、わざわざ足を運んでもらえたことは純粋に嬉しかったですね。
ちなみに、僕の高校時代を知っている先生の中には、カーテンコールで僕が挨拶しているだけで感動したと言ってくださる方もいました。もうこの年なので、そういうことは普通にやります(笑)。

ー(笑)。ちなみに、谷口さんはどのような学生でしたか?先生方とは当時からよくお話されていたのでしょうか?
僕は高校時代、映画研究部に入っていました。「変人は、映研に来る」と言われるようなそんな部活です(笑)。
うちは学校が大きいので100人ぐらい先生がいるんですけど、多分80人ぐらいは僕のことを知っていたと思います。やばいですよね。おそらく生徒会長よりも映研の谷口のほうが認知度が高かったんじゃないかな?
単純に話しをするのが楽しくて日々コミュニケーションをとっていたので、先生方との仲の良さには自信がありましたね。部室か職員室に行けば谷口がいるという感じの学生でした。
ー 今回上演された「明日の卒業生たち」という作品は、学生に届けたいという意識を持って書かれた作品だったのでしょうか?
脚本を書いた当時は、学生に届けようと意識していたわけではありませんでした。でも一つ言葉を選ぶなら「高校生活は、終わったら取り戻せない」こと。部活も勉強も、いましかない時間の大切さを実感してもらえる作品だと思います。

ただ、映画研究部の顧問の先生がSNSに書いた感想を読んで、自分でも気付かなかったものが言語化された感覚がありました。
作品は旧校舎の建て替えを機に友人が再会する物語なのですが、先生はこう綴っていたんです。
「自己の中の校舎のようなものの建て替えは、人生のどこかで必ず迫られる。自分のなかにある何かを壊して作り直すことは、物事に終わりをつけることでもある。そのような中でも、誰かの支えや思い出が存在することがどれほど大切か、その思いがこの作品に込められていた」
誰かの支えがあるから、人は人生に区切りを付けられる。先生の言葉で、この作品に新たな色が付いたような気がしました。

後編では、2026年4月2日~4月12日に公演が決定している、エンタメチーム imgの舞台公演『明日の卒業生たち』にかけた谷口さんの思いをお聞きしています。
後編
ー再演だけど前回の再現をするつもりはない。4月2日から始まる、舞台『明日の卒業生たち』にかける思いを語る【谷口航季 インタビュー後編 】
学校公演密着ドキュメンタリー動画
谷口航季
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エンタメチームimg
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舞台「明日の卒業生たち」
2026年4月2日(木)〜4月12日(日)
すみだパークシアター倉
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